ゲームとアカデミズム 第1講 ゲーム研究概観

はじめに

山瀬健治

かつてゲームは「子供の遊び」として、まともな大人が取り合うものではないという意識が根強かったが、今や家庭用ゲーム機・携帯電話向けゲームの市場が4,000~5,000億規模に成長した現在では、社会として無視できないジャンルとなっている。

一方、アカデミズム(学術界)と言えば、「象牙の塔」として世間と乖離しているというイメージがあるが、ゲームに関する研究が昨今盛んになりつつある。

そこで、今回は概論として、ゲーム研究にどのような分野があるか簡単に触れ、次回以降の連載で各分野の状況について、主にアナログゲームに関連する分野について筆者の及ぶ限り解説しようと思う。

ゲーム研究前史

「人はなぜ遊ぶのか」「遊びとは何か」という哲学的命題を扱った古典として、ホイジンガの「ホモ・ルーデンス」とカイヨワの「遊びと人間」の二冊が有名であるが、ゲーム研究の嚆矢としても重要な地位を占めている。

膨大な内容なので、このスペースでの要約は不可能であり、両書の目次から恣意的にキーワードを挙げるということでご容赦いただきたい。

「ホモ・ルーデンス」より。
「遊びという特殊世界」「闘争としての遊びと表現としての遊び」「真面目という言葉、真面目という概念」「遊びと戦争」「遊びと知識」「遊びと詩」「現代文化における遊びの要素」

「遊びと人間」より。
「(筆者注:遊びの)定義」「分類」「遊びを出発点とする社会学のために」「遊びの拡大理論」「競争と偶然」「教育学から数学まで」「遊びと聖なるもの」

かつてはゲーム研究全体をルドロジー “ludology” と呼ぶ動きもあったが、由来はラテン語の “ludus” 、つまり「遊び」である。
しかし、今日ではゲーム研究のことは “game studies” と呼ぶことが多く “ludology” の語を目にする機会はほとんどなくなった。

ナラトロジーとルドロジー

一部のアブストラクトゲームを除き、ゲームには「物語」が必ず存在する。そればかりか(テーブルトークを含む)RPGなど物語を軸に据えたゲームも決して少なくない。

それらの物語(ナラティブ “narrative” )をストーリー分析などの手法で研究する分野をナラトロジー “narratology” というが、既存の文芸とは異なりデジタルゲームには独自の研究が必要であるという立場からは「ルドロジー」の語を使っていた。

しかしながら、ルドロジーが語源からくる「ゲーム研究全般」を指すのか、「インタラクティブ性などゲーム独自の特性を踏まえた物語論」を指すのか定義があいまいであり、今日ではあまり目にしない語である。

「ゲーム独自の物語論とは何か」という問題があるが、既存メディアの一方的なストーリーテリングでは通用しないインタラクティブ性(後述する人工知能とも関連するが、次にどの物語を提示すると人間がより楽しいと感じるか)や、またコンピュータを利用した物語の自動生成など充分に興味深いテーマを有する分野である。

心理学的・生理学的影響についての研究

ゲームの広まりにつれ、特に若年層への心理学的・生理学的影響についての研究も盛んに行われている。
「暴力的な映像を見た子供は暴力的になるか?」といったテーマを連想していただきたい。(ちなみに、このテーマは両方のデータが提示されており未だに決着がついていない!)
後に科学的根拠がないことが明らかになった悪名高い「ゲーム脳」の話題は記憶に新しい方も多くいらっしゃると思う。

関連して、ゲーム時間と学力の相関といったテーマも有名である。
「ゲーム=遊び」はよくないというステロタイプから、ゲームをプレイすることによる悪影響ばかりがメディアでは取り上げられるが、ゲームによる好影響を示す研究結果も当然存在する。

また、対象は若年層だけはなく、社員教育用のゲームでゲーム設計をどう行えばより効率的に学習内容を習得できるかといったテーマも研究対象である。

シリアスゲーム

一言で言えば「実用的なゲーム」であるが、直接のルーツは恐らく「ウォーシミュレーション」(日本では「兵棋演習」)であり、さらに遡ればチャトランガや将棋に行き着くと思われる。

代表的な物は、現実問題をシミュレートできる環境を紙(またはコンピュータ)の上に再現し演習するというものであるが、電子機器と連動させリハビリを楽しく継続させることを目的としたものなど、既存のシミュレーションにとどまるものではない。

古くから、企業研修で受講生が一人またはチームを組んで会社を経営させ、他のプレーヤーと結果を競うというビジネスゲームが盛んであるが、最近では研修用ゲームとして経営シミュレーションではなく、チームビルディングや人間関係を向上させることを目的にしているものも多く出現している。

なお、シリアスゲームと単なるシミュレーション・演習との違いは「ゲーム性(楽しさ)」を目的に含んでいるかどうかというのが基準であるが曖昧なところもある。

実用性という点で「ゲーミフィケーション」「ゲームニクス」との関係が問題になるが、個人的に現時点でシリアスゲームは「課題解決のために設計されたゲーム」、ゲーミフィケーションは「既存の状況において、ゲーム性を付加して現状を拡張し課題解決に導くための手法」、ゲームニクスは「対象世界のルールをユーザーに明示的に示すことなく習得させるための、デジタルゲームの歴史で培われた体系」と考えている。

人工知能

古典的にはコンピュータチェスのように人間のゲームの相手をさせるものも「人工知能」と呼ばれ、対象となるゲームによって要求内容が大きく異なり、研究内容は多岐にわたる。

チェスを始めとする完全情報ゲームでは計算量を如何に少なくするかといったわかりやすいテーマであるが、非完全情報ゲームではまた別のアプローチが必要である。

さらにはゲームのNPCを動かすのも人工知能であり、人間から見て自然な反応か、プレーヤーを楽しませる反応を返せるかどうかなど、単純な数値処理では解決が困難である。

現在ではゲームのNPCの行動(ひいては如何に人間を楽しませる反応をコンピュータにさせるか)がゲームAI研究の主流である。

ヒューマンインターフェース

デジタルゲームの発展はハードウェアの進歩とも無縁ではない。
グラフィック性能の向上がわかりやすい例であるが、よりゲームを楽しませるための新しいインターフェースの研究も盛んである。

任天堂社のWiiリモコンなど既存のインターフェースの改善といったものもあるが、現在、注目されている分野としては拡張現実 (”AR”=Augmented Reality) や複合現実 (”MR”=Mixed Reality) を挙げることができる。

ゲームビジネス研究

今や巨大産業となったデジタルゲーム業界なのでビジネスとしての研究も盛んである。
具体的には、ゲーム開発の生産性向上、新しい技術が生まれる中でどうマネタイズするか、開発したゲームをどうやってより多くの人にとどけるのかなどといったテーマである。
既存の経営工学や情報工学、マーケティング学などの延長ではあるが、ゲーム業界ならではの独自性もあり、成長産業でもあるので盛んに研究が進んでいる分野である。

ゲームアーカイブ

既にデジタルゲームは相応の歴史を有しており膨大な作品が存在する。それらの作品を保管することも歴史的意義があり、今後の研究のために重要である。

書籍であれば原則全てが国立国会図書館に保管されるが、ゲームの場合は大衆文化であり統一して保管を受け持つところがなく、既に多くの貴重なゲームが散逸している。

最近では立命館大学ゲーム研究センターがデジタルゲームに関する保存に著手したところであるが多くの困難に直面している。

おわりに

以上、駆け足ながら「ゲームとアカデミズム 第1講 ゲーム研究概観」と致します。

なお、ゲーム研究は極めて学際的であり、筆者が見落としている分野も多々あると思うので、不備や参考情報などありましたら是非ともご指摘・ご教示をお願い致します。

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